健康の為の散歩術<29>
私の実家の近くに「谷上山」という山があります。
それほど大きな山ではありません。
標高455メートルの小さな山ですが、
頂上には展望台もあり、
地元ではそれなりに有名なところです。
私は、学生時代から犬を飼っています。
犬の散歩がてら、家の周辺の歩ける場所は、
ほとんど歩き尽くしています。
そのうち同じ道では飽きてきた私は、
この谷上山にも登るようになりました。
いえ、最初はそういうつもりではありませんでした。
歩いたことのない道を探していると、
たまたまその道が谷上山への登山道でした。
「散歩のつもりが、いつの間にか登山になっていた」という、
嘘のような本当の話です。
散歩とはいえ、山の頂上に向けて坂道がずっと続きますから、
体力的にかなりきつい。
汗を流しながら急な坂を登り、
ようやく一息つける場所まで登ったと思えば、
まだ次の坂が現れます。
- 「ああ。散歩とはいえ、少しやりすぎたかな」
山道の厳しさに弱音を吐きそうになりました。
しかし、です。
大変ではありますが、
なぜか途中で足が止まらなくなります。
「もう少し歩こう」と思ってしまい、
しばらく歩くと「もう少し歩こう」と思って、
また登ってしまう。
それはなぜか。
登れば登るほど標高が高くなるため、
より美しい景色が見られるからです。
いくら小さな山とはいえ、
標高455メートルから見られる景色は絶景です。
天気のいい日は、
向こう300キロくらい先は見えるでしょうか。
自分の住んでいる家が、米粒のように小さく見えます。
住んでいる町全体が、一望できます。
途方もなくいい眺めで、疲れが一瞬で吹き飛びます。
上に上がれば上がるほど、景色がよくなります。
だからこそ「もう少し歩こう」と思ってしまいます。
これは経験してみないと分かりません。
疲れているのに、足が止まらなくなるという、
不思議な経験です。
私はそのとき、山登りをする人の
気持ちが分かったような気がしました。
山登りは、すぐご褒美が得られます。
「美しい眺望」というご褒美です。
登るほど、リアルタイムでご褒美が得られ、
次第に大きくなります。
おかげで「もう少し歩こう」という
気にさせてくれます。
気づけば頂上に登っていた自分がいたのです。